第2回 根尖孔(こんせんこう)の話

歯は、歯肉の上に出ている「歯冠」(しかん)と歯肉で隠れている「歯根」(しこん)から成り立っています。 歯冠の表面は人間の体の中で一番固いエナメル質、歯根の表面は歯を支える骨(歯槽骨)と歯を繋ぐ靭帯(歯根膜)をくっつけるセメント質で覆われています。そのエナメル質とセメント質の下には歯の主成分である象牙質があり、エナメル質、セメント質、象牙質は、骨と同じ石灰化した硬い組織です。
そして、象牙質の中には空洞(歯髄腔〈しずいくう〉と呼びます)があり、そこに神経や血管に富んだ軟組織の歯髄があります。

○どうして歯は激しく痛むのか

う蝕(むし歯)は、歯の表面に付着したう蝕原因菌から産生された酸によって硬組織が溶かされて進行します。それらの刺激や影響が象牙細管(歯の話・第1回)を通じて歯髄に伝わり、初期であれば凍みる程度で済むのですが、硬組織の破壊が進むと歯髄そのものに影響が及びます。
このとき、軟組織である歯髄は腫れて痛みを伴う状態です。ところが、上述したように歯髄は硬組織で周囲を覆われているため大きく腫れることができず、歯髄のある空間(歯髄腔)内の圧力が高まり、痛みがさらに増すことになります。

○どのように痛みをとるか

歯髄は、歯の痛みを感じるとともに歯に栄養を送る機能を果たしています。歯髄中の神経や血管は歯根先端部分の直径0.25〜0.3mm程度の小さな孔(根尖孔といいます)を通じて歯の外と交通しています。言い換えると、歯髄は根尖孔を通じて活性と機能を維持していることになります。
そのため、歯髄の生活力は決して大きいとは言えず、う蝕が深くなって歯髄に影響が波及した場合(図1)には、影響を受けた歯髄(拡大図A)を除去して痛みを軽減させる必要があります。また、歯髄を除去した後は、空となった歯髄腔(拡大図B)に再び細菌の感染が起きないように歯髄腔を樹脂などで塞ぐ必要があります(拡大図C)。

○歯科医師に求められること

ここで重要なことは、歯科医師が歯冠の方から歯を削って歯髄を除去し、除去後の空洞を樹脂で封鎖する場合、その封鎖位置の目安が根尖孔であることです。歯科医師には、その位置は肉眼では見えませんが、根尖孔を破壊することなく治療を行い、根尖孔まで正確に樹脂で埋めること(拡大図C)が要求されています。
近年のエックス線検査機器や使用器材の開発によって根尖孔を意識した治療の精度が格段に上がってきています。とはいえ、歯科医療機関での定期健診を受けることでむし歯の予防と早期発見を心掛け、根尖孔まで及ぶ治療を受けないようにすることが歯を長持ちさせるための秘訣と言えます。

※本欄についてのご質問は、誠に申し訳ありませんが現在学会では承っておりません。